今日は雲行きが怪しい。
朝食はバルセロナで買った味の素のインスタント蕎麦。味は確かに蕎麦といえば蕎麦だけど、それほど美味しいわけでもなかった。
ちょこんと飛び出した半島に城壁で囲まれた旧市街がある。元々は島だったのかもしれないが、今は細い陸地で繋がっている。
ベランダの裏側にタイルが使われている。なんとも可笑しなこだわりだ。
こじんまりとしていて悪くない雰囲気だが、いかんせん天気が悪くてあまりパッとしない。晴れていたら白壁がさぞ綺麗だろう。
雨が降り出したがすぐに止む。空の様子を見るとまたいつ降り出しても不思議ではない。
この町のパン屋かどこかで昼食を仕入れようと思ったが、店を探しながら走っていたらあっという間に町を抜けてしまった。しかし郊外にスーパーがあったので、そこで惣菜パンのようなものを買う。
そこから少し走って座れるところを見つけて昼食。
午後から道はジワジワと上りはじめるが、追い風が吹いているので良いペースで進める。
高原のような雰囲気の広い谷を進む道。道幅が広く舗装もいいので走りやすい。イタリア・フランスは道路状況が予想外に悪かったが、スペインは今のところ良い感じ。
時々雨が降ってくるが、本降りにはならずにしばらく進む。
夕方頃に小さな峠に差し掛かる。登りになると路肩がいきなり狭くなり、しかも大粒の雨が降り始めた。合羽を着たいが路肩が狭いので止まる事ができずにそのまま登る。まあそもそもこの登りで合羽を着ていたら汗だくになってしまうので、もはや着ようが着まいが濡れるという結果に変わりは無い。
雨が止まないまま峠を下る。そろそろ今夜の寝床を気にする時間だ。今日もキャンプをするつもりではあるが、この雨だと億劫だ。しかも相変わらず農地が続いているので、どこかに隠れるようにしてキャンプをして人の気配を気にしながら夜を越すのもそろそろ疲れてきた。
昨日のキャンプ場では快適に過ごせたし、今夜もキャンプ場に泊まることにしよう。同じ雨の中とはいえ、整地されたキャンプサイトにテントを張るのとそうでないのとでは全然違う。
地図によるとBenicasimという町にいくつかキャンプ場があるので行ってみる。
次の場所に移る途中でスーパーで買出し。ここで初老の夫婦に話しかけられた。なんでも今朝、どこかで僕を見かけたらしい。その場所の名前は聞き取れなかったのだが、どうやらこの人たちはキャンピングカーで旅をしているようだ。
スペインではフランスほどキャンピングカーを見ることは無いが、それでも昨日のキャンプ場では多くのキャンピングカーの客がいた。休日でもないのに盛況だなと思っていたが、客層を見ると60歳を越えていそうな世代の人たちが多く、恐らく仕事をリタイアして夫婦でのんびりとキャンピングカー旅行を楽しんでいるようだ。
その夫婦とは少しだけ話をして別れて、買い物を済ませてスーパーを出る。その頃には雨は止んでいた。
町の西側へ移動して数件のキャンプ場をあたってみる。2ヶ所目はやはり20ユーロ以上。リゾートっぽい町だし、ひょっとしたらこれくらいが相場なのかもと危惧しはじめる。
3ヶ所目は少し下がって15ユーロだったがそれでも高いのでパス。
日差しが出てきて天気も回復傾向のようなので町を出て野宿することも考えつつ、最後のキャンプ場へ行くと、そこは8ユーロだった。助かった。
受付のおじさんは英語が通じなかったが、身振り手振りで何とかこなす。「シャワーはちゃんとお湯が出るの?」という質問ひとつするのにジェスチャーをしたり辞書を使ったりして一苦労なのだが、こういうやり取りが久しぶりだったので楽しかった。おじさんも結構フレンドリーで、やはりこのやり取りを楽しんでいるようだった。中国や中央アジアではこんなこと宿に泊まる度にやっていたものだけど。
「どこにでも好きなところに張りな」というので、適当な所にテント設営。このキャンプ場はどことなく生活感が漂っていて、どうも長期滞在している人もいるようである。
シャワーを浴びてから受付付近でWifiにつないでいると、自転車の前後にオルトリーブのバッグを付けた明らかに長期旅行中のサイクリストがやってきた。声をかけるとスコットランド人の若い男性で、スペインを回っているらしい。
今日の夕食はお手軽に缶詰。
これは牛だか豚だかの内臓の煮込み。見た目ほど味は濃くない。何をベースとした味付けなのか判別できないが、内臓の臭み・旨味とこってりとしたスープがなかなか美味い。
【今日のビール】
Mahouはスペインではメジャーなビール。STARKもスーパーではよく安売りしている。どちらもごく普通のお味。Voll-Dammはチョイ濃い味のビール。
ちなみにスペイン語でビールは「Cerveza」。必須用語なので覚えましょう。
夕食を食べながら、隣にテントを張ったスコットランドの彼と少し話をする。彼はネス湖の近くの町の出身らしく、「怪物がいるところだよ」と言っていた。ネッシーのことだろう。「ネッシーを見たことある?」と聞いてみたら、笑いながら「もちろん!」と。
そしてもう一つ質問。イギリスの小説家のアーサー・ランサムを知っているか聞いてみた。
アーサー・ランサムは児童小説家で、日本でも「ツバメ号とアマゾン号」シリーズが岩波書店から出版されていた。僕が小学生の時に親がその本をプレゼントしてくれたのだが、イングランドの湖水地方を舞台に、帆船に乗った子供達を主人公にしたその冒険小説を、僕は夢中になって読んで大好きになった。それ以来、僕は「野宿」や「探検」というものに憧れるようになった。ひょっとしたらこの旅のきっかけも、元を辿ればその辺りにあるのかもしれない。
スコットランドの彼はアーサー・ランサムも「ツバメ号とアマゾン号」のことも知っていた。そのことについて色々話してくれたのだが、その辺は上手く聞き取れなかった。それでもその物語のことを久しぶりに思い出し、またその物語が生まれた国を身近に感じることが出来て嬉しかった。
余談だけれど、今更ながらフランスはサン・テグジュペリの生まれた国だということを思い出した。「星の王子様」の作者として有名だが、それ以外にも「夜間飛行」や「人間の土地」といった名作がある。今思えば、フランスではもっとサン・テグジュペリ関連のものを探しても良かったかもしれない。
いろいろと懐かしい記憶がよみがえってくる。いつかイギリスの湖水地方も旅してみたいものだ。その時は自転車とヨットでね……。
【走行データ】
走行距離:85km
総走行距離:16198km