7時起床。ここでは安心して気持ちよく眠れた。結露も無く快適なキャンプ地だったな。
可愛いなぁ。
路肩は広いが舗装は悪く走りにくい。しかし体の調子は良くて、ペースもそこそこ。
風景が単調なので黙々と走る。フェリーの時間もわからないから出来るだけ早めに着いておきたいところだ。
12時前にMontijoに到着。とりあえず町の入り口にあったスーパーで昼食を買う。
フェリー乗り場は町の反対側の郊外にあるので、街中を走りぬける。タイル張りの建物が目立つ。
閑散としている。時刻表を見るとどうやら12時半の便が出た後のようだ。チケット売り場も昼休みで閉まってるので、こちらもその間に昼食。
13時を過ぎて売り場が開く。リスボンまでのチケットは3.25ユーロ。自転車は無料。安い。でも次の便は14時半だそうだ。タイミングが悪い。
仕方ないのでリスボンに上陸してからのルートを考えながら待つ。当初はシントラという有名な観光地に寄るつもりだったのだが、ここが結構山の中にあるようで、そこを経由するとかなり時間がかかってしまいそうだ。それに恐らく、通過するだけでは大して観光することも出来ないから、それならば今回は立ち寄らず、無難に最短距離を行くことにしよう。
フェリーは定刻より少し遅れて出港。
リスボンまでは30分弱の船旅。ここは一応、テージョ川の河口となっているが、ほとんど入り江と言っていいような形状の広大な場所。
リスボンの街は斜面に広がっている。町の両側に大きな橋がかかり、岸には豪華客船が停泊している。
15時に到着。ここからロカ岬まではまだ40kmはありそうだから急いで走り出す。キャンプ地を探す必要もあるから、あまりのんびりしていられない。
大都市らしく路肩が狭く車が多い道。車の流れに乗ってペースは上がるが、体力的にも精神的にも疲れる。概ね平坦ではあるが、時々登りもある。
周囲は次第にビーチリゾートに変わっていく。正直、ビーチとか水着のオネーサンを見て目の保養にする以外に興味ないわ。
……山の方が好きだな。
平地なのに25km/hくらいのペースで走る。日差しが強いし、車も多いので暑い。
17時前にCascaisというスーパーで買い物。今夜はロカ岬でキャンプするつもりで恐らくユーラシア大陸で最後のキャンプになるので、ちょっと豪華に生ハム2種類、チーズ、ワインを購入。野菜も今夜の分だけを仕入れる。
ヨーロッパのスーパーの野菜売り場はセルフ式の量り売りが多いので、一人分の野菜を買いたい時なんかはとても助かる。
買い物を済ませて町を出ると登り道が始まる。途中のGSで冷たいビールを入手(前も書いたと思うけど、スーパーでは冷たい飲み物が売っていないことも多い)。
そこからしばらく行ったところの小さな町にもスーパーがあったので「ここで買えばよかった」と思いつつ、まあ過ぎたものは仕方ない。
ゴールが近づいてきてなにか感じるものがあるかなと思ったが、そんなことよりもただただ坂が辛い。大して広くもない道をえっちらおっちら登っていく。ツーリングのバイクや観光客の車が多く、それらに追い抜かれると「こんなところ車で来たってたいした感動は無いだろ」などと思ってしまうが、まあそれは余計なお世話だ。17000km以上を自転車で走ってここにたどり着いたという自負が、変な風に出てしまう。
道路沿いには住宅が結構あり、あまり“最果て”感は無い。
標高280mくらいまで登り、そこから脇道に入って100m以上下る。帰りにこの道を登ると考えると怖いな。行きはよいよい、だ。
周囲を見渡すと意外と急峻な地形で、しかも低木が生い茂ってるような環境でキャンプ適地は少なさそう。困った。
観光客用の駐車場を抜けて観光案内所まで来る。そこには観光バスが止まっていて大量の人を吐き出している。バイクの数もかなり多い。
人の多さに驚き、辟易しながらも、とにかく岬の先端へ行く。
ついに、とうとう、やっと。
しかし困ったことにあまり感動は無い。不思議なものだ。
記念碑の前で写真を撮るための順番待ちができている。車でやって来た観光客の方が自分よりもよっぽどはしゃいでいるように見える。
意外なことに他にチャリダーはおらず、バックパッカーすらほとんどいないようだ。
折角だから自分も写真を撮りたかったが、人が多すぎてなんとなく気乗りがしない。風景とか撮って時間を潰す。
適当なタイミングを見計らって近くにいた人に写真を撮ってもらった。
この人はなかなかアングルに気を遣って撮ってくれた。
ここに来て靴がそろそろ限界になっている。右足のソールがかなりはがれてきていて、歩くたびに地面に引っかかって取れてしまいそうになる。でもまあここまでよくもってくれた。
何をするでもなくボーっとしているとイタリア人女性二人組に話しかけられた。自転車で日本から来たと言うとたいそう驚いていた。やっぱりそんなに驚くようなことをやったのだろうか、自分は。でもいまいちピンとこない。金と時間と健康な体とちょっとした根気さえあれば誰にでも出来ることのように思えるのだ。……しかしまあそれらこそが貴重な要素なのかもしれないが。
20時近くなってきてようやく人が減ってきた。ここで三脚を取り出して海をバックに撮影したりするが、逆光なのでいまいち。明日の朝にまた来て再挑戦しよう。
やっぱり荷物満載の自転車は目立つので、まわりに大勢人がいる中で三脚で自撮りをするのは結構恥ずかしい。
風が強く寒いので今日はもう撤収する。海風でベタベタだ。
灯台を離れて近くの脇道に入ってキャンプ地探し。松が生えて風除けになる場所があったので今夜はここでキャンプしよう。でもその前に夕日を眺める。
岬先端で総走行距離撮るの忘れた。大事な事はいつも後から思い出す。
食材が余っていたので昨日と同じ料理を作る。いつもいつも同じようなメニューで飽きてきていたが、でもこれも最後か。ふと、このいつもの光景を写真に残したくなる。もう少ししたらこの「いつも」が再び非日常になってしまうのだ。
“AQUI…… ONDE A TERRA SE ACABA E O MAR COMECA……”
「ここに地終わり、海始まる」。ロカ岬の石碑に刻まれた詩人カモンイスの言葉だ。この言葉を初めて知ったのは学生の頃に読んだ小説のタイトルからだった。当時は海外自転車旅なんて考えもしなかったが、なんて素敵な言葉だろうと思ったことを覚えている。ここは大陸の西の果て、僕にとっては旅の終わりの場所だけれど、大航海時代の人たちにとっては始まりの場所だったのだ。
しかし旅のゴールに到達したという実感はまだ無い。一方で「やり残したことは無いか」、「大事なことを忘れていないか」と妙な不安と焦りはある。この感動の薄さゆえ、「これでいいのか?」という感覚がある。
とりとめもなく物思いに耽りながら少し横になったら、そのまま寝てしまった。夜中の3時に目覚めて日記を書く。こんな時間だけれど、こればかりは“今”書いておかなければ。
外に出て夜の灯台の写真を撮ろうと思ったが霧が出ていた。撮影は断念。
寝袋を出して寝仕度をする。このフカフカの寝袋に包まって寝るときのなんともいえない幸福感。それもこれが最後だ。
感動的なクライマックスは無かったが、それも自分らしい気がしてきた。
“大陸横断”の旅はこうして終わった。
【走行データ】
走行距離:85km
総走行距離:17580km
ポルトガル内:281km
イスタンブールからの距離:5529km